物語のかけら


バニラ

船着場のアイスクリーム屋が開くのは太陽がのぼる直前の夜が少しうすくなった頃だけ。

深夜ラジオにのって届いたバニラビーンズ。

濃紺の港に浮かぶソフトクリーム。

白い顔をしたひとびとは大切な灯を扱うようにそれを受け取る。

 

「これを求めに来るのは夜に甘い夢を見られなかったひとなのです」

 

20170821twitter@ohanasitechoおはなし手帖より

旅行者

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「雨雲」

雨雲を肩にのせてベンチへ座るひとがいました。

レインコートを着てはいますが、青い頬をして震えていました。

隣にもうひとり、雲をのせたひとが座りました。

そのひとの雲から雨は降ってはいませんでした。

「大丈夫。止まない雨はありません」

そうして、雨の止むまで、一緒に待ちました。

ただ、それだけのおはなしです。

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きざはし

石段のはずれたところへ葉が茂っていた。 どこからともなく風が吹いて、葉がさわさわとゆれる。 一斉に。 幼い頃の感情が立ちのぼって足を止めた。 けれども、思い出のかけらも探し出せない。 それが少しさみしいような気がする。 再び私は歩き出す。 いまはまだ。 またここから。

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