道端や原っぱに生える、こういう草を見たことのある方はたくさんいらっしゃるのではないかと思います。
オヒシバさんです。
漢字では雄日芝さんだそうです。
丈夫な茎と葉を持ち、ひとびとの足に踏みつけられるところにでも生える、たくましい草。
「それがどうしてかわいそうなんだい?」
と、お思いでしょう。
かわいそうにしてしまったのは、わたくしでございます。
「緑街」という本をつくりまして、そのなかには、日常で接する草木の名前がいくつか出てまいります。
ミヤコグサ、アオキ、ネジバナ、カヤツリグサ、ミゾカクシ、ムラサキサギゴケ。図鑑を眺めて、「ああ、茂ってたあの子はこういう名前だったのね」とうきうきしておりました。
なじみの深い、オヒシバさんも、緑街へ生えています。
けれど、わたくし、オヒシバさんを、「オシヒバ」さんと打っていたのです。かわいそうに。かわいそうなオヒシバさん。シバじゃなくて、ヒバにされてしまったのです。ビバみたいです。
これまで緑街では誤字を二箇所見つけておりました。
「船」が「舟」となっているのと、「ディ」が「デョ」となっているという、これらも切腹したくなる誤字でした。正記を貼付して改めておりました。
しかし、もう、オシヒバって。
切腹したあとにはらわたを引きずり出したくなりました。どうにも目が節穴です。もう少し神経質な人間だと思っていたのですが、違うのかもしれません。たぶん違うのです。人生半ばに差し掛かって気づきました。どうしても節穴のようです。今まで書いたもの全部が疑わしくなってきました。
時間が経って、だんだんと、見過ごさずに読んでもらえたんだなということで、じわじわと嬉しさも感じてきました。ご指摘いただけることがありがたいです。
何度も何度も読み返していても、抜け落ちてしまうのですね。校正の方法を考え直そうという反省とともに、どうにかこのオシヒバオヒシバを救出しないとならないと考えました。
また貼付して隠せばいいのか? それでオヒシバは納得するのか? お客さんに申し訳ないのじゃないか? いっそこの間違いを楽しんでもらえないか? この節穴を。
そこで、ウォーリーを探せではありませんが、全156ページの中にひとついる「かわいそうなオシヒバ」を探していただけるよう、オヒシバ栞をつくりました。栞にはオヒシバの情報を少し載せています。姿は見たことがあるけれど、名前は知らないという方へのオヒシバ啓蒙栞になれば、かわいそうなオヒシバにもわずかでも顔向けできるのではないかと思いました。一緒にオヒシバを探してもらえる方がいたら……と思います。
すでに緑街をご購入いただいた方には、もろもろの支度が整い次第、「かわいそうなオヒシバ栞」をお届けできればと思っております。不完全なものをお届けしてしまって、申し訳ありません。
「緑街」を印刷所で製本してもらおうと決めた時には、まさかあとで一文字ずつ貼付したり、このような栞をつくる手作業が待っているとは思っておりませんでした。いつもの手づくりの本とはまた違った愛着も生まれるとともに、自分の目を信じてはいけないと思い知りました。
かわいそうなオヒシバさんの教訓を今後に活かしてまいります。