2021年1月29日に販売開始予定の『泡沫日記』は2冊組の手製本です。
おはなしの内容に触れながら、製本について綴ってゆきたいと思います。
1冊目『泡沫日記』____
こちらは人魚がいなくなって途方に暮れちゃった男の人の日記を1枚ずつ集めた構成になっています。
そう、途方に暮れちゃってるんですね。
「あー、なんか幻でもいいから波からちょっと顔だしてくれないかな」なんて思いながら防波堤の冷たいコンクリートの階段に腰掛けて、海を眺めたりして。
そんな彼に思いを寄せる女性がいまして。
この〈彼女〉が健気なんです。彼が人魚に思いを残しているとわかっていながら側にいて、それがだんだん辛くなってゆく。
友達だったら、「さっさと離れちゃいなよ」と言いたくなるかもしれない。
とはいえ、〈彼女〉にも毒の成分はあるんですね。
彼に「人魚の鱗を拾ったの。あなたにあげる」みたいなことをやるんですが、これは彼女の無意識にねじれた支配欲。
それもふくめて、「さっさと離れときなよ」と言いたくなる。
少しずつゆがんでゆく彼女と彼の関係。
そんな事情も隠れる彼の日記を、「某月某日」と区切って、1枚ずつ切り取っています。
使っている紙は「ポルカ」という名前で、紙の色は「そば」です。
ポルカのシリーズは紙の名前がかわいらしくて、コンニャクとか、豆腐とか、ソーダとか、カステラなんですね。
かわいいですね。
紙自体もかわいらしくて、どこか懐かしい風合いで、手に触れる繊維のざらつきがやわらかいんです。
ぜひ触ってみていただきたいですね。
この「そば」にインクジェットでテキストをプリントしまして、そこに消しゴムはんこでつくった泡ぶくをひとつずつスタンプしました。
通常のインクパッドと、油性のインクパッドを使用しています。
油性の方は、無色透明で紙に半透明の効果を与えてくれます。泡ぶくの影にいいかなあと思いました。
1枚1枚手押しでやっていますので、その時のフィーリングでいろんな種類の模様が生まれました。
表紙や奥付を含めて合計18枚の紙をハトメで綴じます。
留めるとき、ハトメをはめる前の下準備として、パンチで穴を開けるのですが、18枚一気には無理でしたので、3パーツにわけて穴を開けました。
その穴にハトメをいれてバチンとしてできあがりです。
ハトメも泡ぶくのひとつみたいな仕上がり。
2冊目『泡沫日記・貝殻と幻』___
こちらは人魚の心を封じた一冊です。
『Re:泡沫日記』ですね。アンサーソング。コールアンドレスポンス。
紙は両更クラフトを使いました。クラフトは汎用性が高いですが、本文に使うのは初めて。
クラフトの色が濃いので、黒い文字はちょっと見えにくくなります。
今回はあえて文字を見えにくくしたいと思いました。
砂浜で文字を拾うように。幻に目を凝らすように。
表紙には色上質紙の黒を。
本文と表紙を合わせて、麻糸で中綴じステッチとしてまとめました。
本の背があみあみになっています。
ケース___
2冊をまとめるためのケースには「かぐや」という名前の「満月」という色の紙を使いました。
月のクレーター模様がエンボスされた、大好きな紙です。
そこに、また泡ぶくのスタンプを押して、エンボスパウダーという魔法の粉をふりかけ、泡をぷっくりつやつやに浮きあがらせました。
そうなんですね、今回は3つの新しいことを導入して楽しみました。
ハトメ、エンボスパウダー、ステッチ中綴じ。
どれもおもしろい効果が得られたので、また今後も使っていきたいですね。
こんな形で、今回は30冊作成しました。
minneで販売するのと、3月開催のブックイベント・Book Lovers に作品の展示出展させていただくのと、2021年もアートブックターミナル東北が開催されるなら出品したいなと思っています。
どこかしらで見ていただけたらうれしいです。