大きな本をつくること


〈読書〉は〈本〉を開き、ひとりひとりが言葉を心に起こしていく、個人的な体験です。

 

かつて、芥川龍之介が「三つの寶」という子供向けの大きな本をつくりました。

残念ながら本のできあがったときには、芥川はこの世にはもういませんでしたが、そのあとがきに、昭和二年十月、小穴隆一という方が記しています。

 

「あなたがたは あなたがたの 一番仲のいいひと、一番好きな方がたと、御一しょに、この 三つの寶 を御覧になりませうが、この本は、芥川さんと私がいまから三年前に計画したものであります。私達は一つの卓子のうへにひろげて 縦からも 横からも みんなが首をつつこんで讀める本をこしらへてみたかつたのです。(中略)この本をお讀みになる方がたは、はじめ私達が考へてゐましたやうに、みんな仲よく首をつつこんで御覧になつて下さい」

 

私が持っている「三つの寶」は昭和四十八年の復刻版ですが、閉じた状態では大人の胴体幅ほどの大きさがあります。広げれば、ちいさな子供が四方から一緒に読めるような本です。一冊ずつ、挿絵が貼付され、天は金色に染められています。特別上等な本です。

この本を知ってから、〈同時に複数人が共有する読書〉というイメージが心に生まれました。

 

さて。

私〈おはなしの喫茶室〉がいつもつくっているのは、おもに豆本です。

本を開く「そのひとのためだけの言葉」という気持ちはあります。

ただ、それが少しさみしいような気のすることもあります。

さらに。

私は極端なことが好きです。

ちいさいもの、ひとりの心に落ちるもの。

その反対にある、〈大きなもの〉〈誰かと共有できるもの〉に今回興味があります。

本のなかへ入ってみたいという子供心もあります。

 

そこで、テーブルの上からおはなしを飛び出させて、みんなが共有できる読書体験をつくれないかと思いました。

「三つの寶」芥川龍之介著 / 昭和3年6月20日刊 / 改造社版

名著復刻 日本児童文学館 / 昭和48年10月5日発行 / ほるぷ出版 


展示のしかた


「四十雀」は万華鏡のようにうつくしく形を変える鳥の影を封じた、724文字のちいさなおはなしです。

〈みんなで共有〉する〈大きな本〉を部屋のなかにつくるため、文字をひとつずつ切り抜いて、壁に飾ることにしました。

 

◇絵のかけら◇

すずき恵さんのつくった絵のかけらです。

◇文字の抜け殻◇

切り抜いた文字の抜け殻です。ちょっとずつ増えますので、どうぞご覧くださいませ。