愛する猫に別れを告げられた男は眠れぬ夜、細かな文字がびっしりと綴られた長い物語を読むともなくめくり、しばらくしてようやく眠りに吸いこまれた。
すると、〈猫〉という文字がひとつ、ページの隙間から這い出して、うろうろと男の顔のまわりを探索したのち、その耳穴に入った。
そして、次につづけとばかりに、本から文字がみるみるはがれ、列をなして耳穴に入っていった。
痒みを感じて耳をこすりながら目を覚ました男は、本を開いて驚いた。
ページにはノンブルしか印刷されていない。
さらりとした、凹凸のない、真っ白な紙の束。
まるで「私はもとからこういうノートですよ」と言わんばかりだ。
それでもなぜか。
男は、夢のなかで物語のすべてをだれかから聞かされたような気がする。
