「大丈夫? 痛いところはありませんか?」
彼はあらゆるものに尋ねます。
腰を曲げて歩く老婦人に。
じっと身を縮こめる犬に。
ふちの欠けたカップに。
座面のほつれた椅子に。
目盛がうすれた定規に。
折れた胡桃の枝に。
古い庭の飛石に。
強い風に耐える電信柱に。
そう、あらゆるものにです。
問いかけたものたちにちょっとでも傷があれば、ポケットから絆創膏を取り出し、ちりり、慎重に封を切り、しっかと目を開けて傷を凝視し、ほんのわずかでも当てる場所をまちがえたら罰せられるかのような張り詰めた様子で、その傷を覆うのです。
彼は額に浮いた汗をぬぐってつぶやきます。
「大丈夫、もう痛くない」
絆創膏で隠しても傷がなくなることはないのに。
そして、また少し歩いては立ち止まり、かがみこんだり、見あげたりして、問いかけます。時には、空に浮かぶ雲の割れ目にまで。
「大丈夫?」
しかし、じぶん自身には一度も尋ねたりしたことはないのです。
