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『夜の贈りもの』作・かくら こう

火葬が終わって棺を開けたら、骨のほとんどは形を留めず崩れていた。

箸で触れた先から砂糖みたいにほろほろとこぼれていく。

ただ、まるい頭のてっぺんだけが小さなアーチを描いてきれいに残った。

みんなそれを黙って覗きこんだ。

骨にほんものの月と同じ凸凹としたクレーターが浮いている。

 

昼の空に浮かぶ白い月。

いつだったか、窓から一緒に見た。

……夜の忘れもの。

ひらりと舞った言葉、その表情は僕からは見えなかった。

 

「月になったんだ」

胸のうちにつぶやいたつもりが、かすれた声を発していた。

「月か」

「月ね」

「月だね」

「月にねえ」

父、母、叔父、祖母……近しい親族たちは、貝が開くようにつぎつぎと声を吐いた。

妹は、はるか遠く静かに佇むうつくしい月にあこがれ、願い叶えて月になってみせた。

僕らは顔をあげて、腫れあがった目を落としそうになりながら、ほんのりと笑った。